大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成8年(オ)2235号 判決

主文

原判決中、上告人敗訴の部分を破棄する。

前項の部分につき、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人岩本雅郎の上告理由書記載の上告理由第一について

上告人の本件請求は、同人の夫である川上政雄と被上告人との間で締結された本件信用取引契約に基づく株式取引によって生じたとされる債務一三六九万四四八九円につき、自己の債務でないことの確認及び無権代理人としても右同額の債務を負担していないとの確認を求めるとともに、上告人が過誤によって被上告人に支払った金員一六三万四〇三五円の返還等を求めるというものである。記録によれば、上告人は、原審の第一回口頭弁論期日において、右株式取引によって生じた債務につき上告人が民法一一七条一項に規定する無権代理人としての責任を負う旨の被上告人の抗弁に対し、相手方が上告人に代理権のないことを知っていたか又は過失により知らなかったのであるから同条二項の規定により無権代理人の責任を負わない旨の再抗弁を記載した平成七年一一月二四日付け準備書面を陳述していることは明らかである。しかるに、原審は、右株式取引のうちの一部につき上告人の無権代理人としての責任を認めて本請求の一部を棄却するに当たり、被上告人の右抗弁の主張について判断するのみで、上告人の右再抗弁の主張につき何らの判断もしていないから、原判決には判断遺脱の違法があるものといわざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は右の趣旨をいう点において理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、上告人の敗訴部分につき原判決は破棄を免れないから、更に審理を尽くさせるために右部分につき原審に差し戻すこととする。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例